トヨタ紡織の強さの秘密に迫る

昨季3位のトヨタ自動車、同2位の三菱電機と戦い、3勝1敗と好調のトヨタ紡織

敗れた開幕のトヨタ自動車戦も最後の最後までどっちが勝つか分からない展開で、2戦目は快勝。

得失点差ではトヨタ紡織が上回っている。

三菱電機にはなんと連勝した。

私の観戦眼・戦術論では秘密に迫ると言うほど迫れないと思うが、三菱電機戦を見ていて、非常に魅力を感じたので、少し分析してみたい。

大きく変わったロスター

PGでキャプテンでもあった川原ゆいさん、Wリーグでは珍しく30歳を過ぎても第一線で活躍し続けた大黒柱の長部沙梨さんら主力選手がトップカテゴリーでの選手生活に別れを告げた。

Wリーグで実績のある選手や有望なルーキーが加入はしたものの、不安視されていたチームだった。

しかしフタを開けてみるとこの好調ぶり。

川原さんや長部さん、さらには彼女たちよりももっと前からチームに根付いているものがしっかりと受け継がれているのだろうか。

ポジションレス、全員攻撃・全員守備

まずトヨタ紡織の特徴として皆が様々な役割をこなすことが出来る。

純粋なPGは1人だけで、その坂本選手も決してプレータイムは多くない。

その中で齋藤選手、加藤臨選手を中心に状況に応じてボールハンドラーは代わる。

純粋なセンタープレーヤーもルーキーの中野選手1人だけで、その中野選手も4試合で1分の出場に留まっている。

ペイントエリアで身体を張る機会が多いのは身長170センチ台の登録上はSFやPFの選手たちだ。

万能型の選手たちでポジションレスなバスケをする。

ホーバスHC率いる日本代表以上に全員が3ptを打て、全員でリバウンドに飛び込む。

どんなスポーツでもよく全員守備・全員攻撃が掲げられるが、まさにそれが体現出来ている。

長部さんの穴を補って余りある活躍を見せている東藤選手も高校時代は3ptシュートをあまり打っていなかったそうで、実際昨秋のU18アジア選手権や鮮烈な印象を残したアーリーエントリー時のデビュー戦でも2ptでの得点が多かったが、プロ入り後は3ptシュートの精度を格段に上げている。

その東藤選手とともにオフェンスで中心となっているのがこちらもルーキー齋藤選手。

※東藤選手は高卒、齋藤選手は大卒だが、出身高校はともに札幌山の手高校

登録はSFの選手がボールハンドラーの役割を担っている。

あくまで基本に忠実なバスケ

ではもう少し具体的にまずはオフェンスから。

確実に得点まで持ち込める時以外はほぼファストブレイクはしない

かといって遅い展開でもなく、ハーフコートオフェンスで横綱相撲でもない(そもそもそういうバスケができるメンバーが揃っていない)

イメージとしてはハンドボールのようなオフェンスではないだろうか。

リズムよくパスを回し、ズレが出来れば一気にギアチェンジして、ドライブする・合わせのパス・3ptシュートなど。

ディフェンス面でもゾーンを多用する、トラップ的なことを仕掛けるといった奇策は少なく、全員でボックスアウトしリバウンドに飛び込み、ルーズボールに食らいつく。

至って基本に忠実だ。

ヘッドコーチの手腕

このチームを率いるのが老将・中川文一HCだ。

決して真新しいことをしているわけではなく、試合前やタイムアウト時などを見る限りでは卓越した指導力があるとも正直感じない。

選手の特性を見極める眼、それをどう当てはめてチームとして形にするか、選手のコンディションや相手等を考えて誰をどう起用していくか。

などPDCAに優れたコーチだという印象を受ける。

また決して多くを語らず(だから一ファンから見ると指導力が高いとは感じないのかもしれない)、選手たちに考えさせるスタイルだ。

三菱電機との1戦目では20点差以上リードしていながら、バタバタした時間帯があった。

それでもタイムアウトでは手短に話すのみで、選手交代で打開を図った。

時に仇となることもあるだろうが、新加入選手も多い今季の現状を考えるとチームの成長を考える上では良かったのかもしれない。

実際終始クロスゲームとなった2戦目に活きていたように思う。

今後の課題は

と考えると代表組が合流間もない状況で連携が不十分なトヨタ自動車に2戦目で快勝したこと、渡邊選手、根本選手の調子が上がってこない三菱電機に連勝したことは何ら不思議なことではなかったのかもしれないが、今後各チームのスカウティングは進む。

インサイドの主力選手に185センチ以上が3人いる三菱電機相手にも互角以上の制空権を握ったが、デンソーJX-ENEOSなどインサイドサイズがあるチームはミスマッチを強調してくるだろう。

その時にどう戦うか。

三菱電機との2戦目では東藤選手が40分フル出場するなど高校バスケ並みにプレータイムが偏る傾向が見られる。

佐藤選手、井澗選手、坂本選手にももっとプレータイムを配分していきたいところ。

小さくても、身体能力抜群な選手がいなくても戦える個性あるチームは魅力的で、Bリーグにもこういうチームが出てくると面白いと思う。