Wリーグ西地区第7週レビュー

バスケットボールは番狂わせが少ないスポーツだと言われている。サッカーと比べると1/4ほどのコートサイズの中で5人の選手たちが1on1の局面を打開して点を取り合うスポーツであり、個々の能力が反映されやすい。WリーグでもENEOSの試合を見ると毎回感じることだが、今週の2カードでもそれを痛感させられた。

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トヨタ自動車アンテロープス×アイシンAWウィングス

2試合ともアイシンAWが完敗。ほとんどの時間帯でトヨタ自動車が15点以上の差を保っていた。アイシンAWにも能力の高い選手は揃っているが、トヨタ自動車とは根本的に違った。それは主に以下の通りだと思った。

  • フィジカルの強さ
  • ディフェンス強度
  • パススピード

Wリーグでプレーするには狭き門であり、皆エリート中のエリート。アイシンAWの選手も聖カタリナ学園など名門校出身選手が揃っており、企業チームであれば練習環境も整っているはずだが、トヨタ自動車アイシンAWの選手では学生時代も含めたフィジカルトレーニングの質量が違いすぎるのではないか(アイシンAWの選手全員がフィジカルで劣るわけではないが)。リング下での肉弾戦で圧倒された。ペイントエリアに侵入する前の段階でもトヨタ自動車の寄せが早く、トラベリングやダブルドリブル、ボールファンブルが相次いだ。頼みの3ptシュートの形をなかなか作れず、レイアップに持ち込んでも最後の最後のところで身体の軸がブレて決めきれない。2試合とも前半はトヨタ自動車の出来が決して良かったとは思えず、アウトナンバーからあっさりファストブレイクを決められたり、オーバーヘルプからの失点などこのチームではあまり見られないシーンもあった。それでもアイシンAWはファールで止めざるを得ない場面が多く、FTを多く与えてしまった。FT高確率の選手も多いトヨタ自動車にとっては望むところ。宮下選手、近平選手が早々にファールトラブルでベンチに下がり、ディフェンス強度は下がり、結果トヨタ自動車は力強いパス、ドライブから作り出したオープンでの3ptシュートを確実に沈めて、点差を広げていった。game2ではファールは減ったが、その分ディフェンスはよりソフトになってしまい、2Qの後半5分以外はトヨタ自動車がワンサイドでゲームを進めた。要は2試合とも同じような展開である。

アイシンAWはベンチワークでも世界の名将相手に対抗できなかった。全選手を育てたい・特定の選手に負担、疲労を集中させたくないという思いは強く感じる。トヨタ自動車のパワフルさに対抗するためディフェンスと飛び込みリバウンドで力を発揮する北川選手を2試合ともスタメン起用するなど策は見られたが、タイムシェアにこだわりすぎて、この試合を勝ちにいくとか全力で潰しにいくという姿勢が感じられなかった。格上と対戦するのだから玉砕覚悟で臨めばいいし(実際玉砕された...)、体力温存とか後半に備えてとか考えている場合じゃない。小川HCも桜木TAも優しすぎる。よく優しいコーチのことを「お父さんのような雰囲気」と表現されることがあるが、私が思うに親戚のおじさん、同級生のお父さんのような見守り方かなと(笑)game1だと上長選手、game2だと梅木選手、前半からもっと使っていけばいいと思う。3週間試合が空くのだからある程度は無理させてもいいはずだ。どこまで無理させるか、シチュエーションに応じた選手の最適な組み合わせなど決断ができないからこその無難なタイムシェアだと感じてしまった。

という具合に大きな実力差を感じてしまったが、両チームとも若手選手やこれまでプレータイムに恵まれなかった選手たちの活躍が見られた2試合でもあった。

game1ではディフェンスでのミスを取り返すべく難しい体勢からのミドルシュートを決め、game2ではチーム最後の得点を決めるなど与えられたチャンスで集中力を保って戦っていた西澤選手。

game1ではファールを取られて悔しさのあまり思わず床をドン!としてしまいテクニカルファールを取られてしまった脇選手。私的感情だとそのくらいは…と思ってしまうが、審判の真後ろだったので、異議と取られてしまったのだろうし、当然褒められた行為ではない。ただそのくらいの気持ちを持って強豪チームの中でプレータイムを獲得していこうという強い気持ちの表れ。直後にチームメートは皆慰めていたし、game2で脇選手が得点を決めた時にはルーキーの初得点のように皆が喜んでいた。共存共栄して競争してチーム力は高まっていくのだと思う。

アイシンAWでは三間選手、江良選手の活躍が光った。三間選手はgame1で27分出場・11得点(うち3ptシュート1本)・9リバウンド。game2ではスタメン起用され、34分出場・10得点・9リバウンドの大活躍だった。高卒3年目だが、過去2季では計19試合出場で平均プレータイムは5.6分に留まっていた選手が白選手、濱口選手の移籍により手薄となったインサイドでチャンスをものにしつつある。終始相手ペースではあったものの、トヨタ自動車のインテンシティは常に高く、その中でのこの結果は自信になったに違いない。合わせからの得点、リバウンドは確実にチームの力となっており、game1でトヨタ自動車とリバウンドがほぼ互角だったのも三間選手の力に他ならない。スクリーナーとしても機能していたが、課題はディフェンス面でのステップワークか。game2ではそこを突かれて、エブリン選手に得点を量産された。後半戦に向けて機動力強化を図っていきたい。

江良選手も2試合で14得点。game2では前日の頭部負傷により欠場を余儀なくされた上長選手に代わってベンチからの出場でエネルギッシュにプレー。スティールからの得点は追い上げの予感を抱かせた。派手さはないがプレー判断がよく、オフェンスのリズムを作れるので、上手く使ってあげてほしい選手である。梅木選手は前週の試合で激怒していた米谷選手とのコンビネーションで得点を決め、大差がついても気持ちを切らすことなく、1on1を仕掛け、得点を狙っていた。ベンチも暗くなることなく盛り立てていた。

9連敗、勝敗だけ見れば昨季と変わらないが、選手の充実度は全然違うと思う。8月に難しい時期を過ごし、9月はコンディションが上がっていない選手が多かったが、皆上向きで、中断に入るのが惜しいくらいだが、その期間にフィジカル強化は必須。そしてベンチワーク。後者に関しては10試合で戦力の見極めは出来たはず。相性の良い組み合わせ、バランスが崩れる組み合わせなども把握できたはず(近平選手と三間選手の併用はオフェンスを重くした)実業団の強豪・紀陽銀行と対戦する皇后杯は勝ち上がればシャンソン化粧品。試合を重ねるごとに二頭体制のデメリットも出始めてきているが、今一度指示系統やコーチ陣の役割分担をハッキリし、非情な決断もして、勝ちにいくアイシンAWを見たいものだ。

 

トヨタ紡織サンシャインラビッツ×デンソーアイリス

こちらのカードは実力伯仲、特にgame2に関してはトヨタ自動車×デンソーgame1に続く今季の好ゲームだと思う。2試合ともロースコアだが、双方ディフェンス力が高いのでそうなった。イージーシュートを外していたからではない。

結果としてデンソーが2勝した。トヨタ紡織の中野選手、飯島選手の活躍ぶりには驚かされた。それ以上に本川選手の決定力とひまわり選手のオフェンスリバウンド。ここが勝負のポイントだったか。トヨタ紡織も強烈な個が組み合わさったチームだが、本川選手、ひまわり選手には及ばなかった。

個の能力で押し切った格好だ。game2に関しては試合毎でプレータイムが偏る中川HCの悪癖も最後に踏ん張れなかった要因の1つではあるだろうが、それが霞むくらい本川選手、ひまわり選手は強烈だった。

 

チームとしてのポテンシャルはトヨタ紡織の方が上だと感じた。両チームとも特長が明確な能力の高い選手が揃っている。トヨタ紡織は各ポジションに期待の若手がいる一方で、デンソーインサイド陣の平均年齢の高さとスタメンの固定化が気掛かり。PGに関しては稲井選手・笠置選手でタイムシェアし、渡部選手が大ベテランかのごとく(実際は大卒2年目だが 笑)悪い流れを断ち切る。しかし他のポジションに関してはシックスマンの近藤選手、畠中選手含め凄すぎる選手・戦況に応じて的確なプレーが出来る選手が揃っていて、割って入ることが出来ない状況。正直1,2シーズンの間で優勝出来ないと…と思ってしまうが、そこは歴戦の名将の手腕に期待か。

指揮を執った4試合は上位チーム相手だったこともあり、リアリストに徹したが、今後は若手の見い出されていなかった能力を引き出すことだろう。来季は他チームで燻っていた才能あるを引き抜き、開花させているかもしれない。シーズン中も欧州との行き来があるのは懸念材料ではあるが、ヴクサノヴィッチAHCもいるので、些細なことかもしれない。

 

選手だけでなくコーチもライバルから刺激をもらって、競争して、より良いチームを作り上げる。その中でコーチも育てて、永続的な強化に繋がっていってほしいと願っている。

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