皇后杯決勝 ENEOS×トヨタ自動車

ENEOS○87-80●トヨタ自動車

ENEOSの底力を見た大会だった。準々決勝でトヨタ自動車と対戦したアイシンAWは前半はスコアこそ同点だったものの、P&Rを封じられ、アイソレーションで仕掛けてもFTまでに留まることが多かった。後半戦術宮下は通用せずに惨敗。トヨタ自動車の準決勝は勝利こそしたものの7人でローテーションする日立ハイテクに最後まで苦しんだ。決勝は4選手がフル出場する高校バスケのような選手起用だったENEOSに敗れた。三好選手の爆発はあった。平下選手も疲労を感じさせないハツラツとしたプレーを見せたが、経験豊富な選手と彼女たちと腕を磨いてきた今まで陽の目を浴びなかった選手たちが融合したENEOSに屈した。現時点ではENEOS、日本代表のスタイルが日本女子には合っていると認めざるを得ない。

何だか日本女子バスケを見るのが嫌になってしまうくらいの残酷な現実を見せられたが、惚れた嫁の嫌なところを1つ2つ見つけたからって別れません。一般的に見れば可愛くなくても出来が悪くても我が子は最愛するものである。えっ?私は嫁の嫌なところなんてないですよ?我が子はひたすら可愛いですよ?

 

 

はい、不要な情報ですね。試合をちゃんと振り返ります。 

 

  • 1Q

ゾーンディフェンスを多用し、ENEOSのペースを乱したトヨタ自動車ENEOSは本来の速いオフェンスを繰り出せず、ゾーンでも足がよく動き、宮澤選手を封じた。中田選手のミドル、中村選手の左ドライブでやられるのは織り込み済だったのだろう。オフェンスではエブリン選手を中心に仕掛けて、インサイドで手堅く得点。

外が空いてきたところで三好選手が仕留めた。今季はリーグ戦含め3ptシュートの調子が良くなかったが、毎試合打ち続けてきたことが決勝の大舞台で実を結んだ。

トヨタ自動車が優位に試合を進めたクォーターだったが、ENEOSオフェンスとなったこのクォーターラストのモンデーロHCの采配には疑問。三好選手、安間選手を下げ、ビッグラインナップを敷いたが、宮崎選手のスピードに翻弄され、失点して終えることとなってしまった。抑えて終わろうとしての交代策だったが、裏目。これも準決勝同様ENEOSの魔力か。

 

  • 2Q

1Qラストの得点を足ががりに追い上げるENEOS。1Qでは封じられた宮澤選手の3ptシュートが決まり始めたが、点差はトヨタ自動車のリードが6点前後という状況で推移。河村選手のインサイドでの粘り強いプレーが光った。ラストプレーで投入された脇選手も仕事をきっちり果たした。

 

  • 3Q

当たり出したら止まらない三好選手。このクォーターも出だしで3ptを決め、トヨタ自動車が6点前後のリードをキープして試合を進めていたが、残り3分ごろから雲行きが怪しくなってきた。リードしていることがかえって重圧になっていたのだろう。代表経験豊富な長岡選手やエブリン選手にしてもアジアカップで優勝したときはプレータイムに恵まれなかった選手である。当然のことなのかもしれないが、このクォーターで押し切れるポイントはあった。

残り6:22三好選手のターンオーバーから3:00トヨタ自動車タイムアウトまでの流れ。ENEOSタイムアウトまでの流れ。ターンオーバーから3ptシュートを決められる最悪の流れだったが、ミスを取り返すべく三好選手が決め返した。そこからENEOSタイムアウトを経て7点リードになったが、この3分ほどの間でバックコート陣の交代という手は打てなかったか。岡本選手がショットクロックバイオレーションを冒すなどトヨタ自動車の流れにあり、普段なら山本選手か永田選手を入れてギアチェンジで加速する展開だったと思う。変化をつけられず、スタメンが休めず、そのうちに2回のバスケットカウントでENEOSが3点差まで詰めてきた。3Qでタイムアウトを2回使うわけにもいかず、ENEOSの流れに。ENEOSのラストオフェンスでトヨタ自動車は良いディフェンスをしていたが、ショットクロック残り少ない中で中田選手が難しいミドルショットを決めた。

このダメージは相当大きかった。29分くらいずっとトヨタ自動車がリードしており、試合を支配していた。まだあと10分あった。焦る必要はまったくない時間帯だったが、完全に飲み込まれてしまった。ENEOSは1点のリードだが、3歩くらい前に出た。

 

  • 4Q

飲み込んでしまえばあとは岡本選手、宮崎選手のスピードで圧倒するのみだ。トヨタ自動車も必死の抵抗を見せるが、三好選手が封じられて、インサイドアタックも準決勝の2Qのような攻め急ぎが見られ、流れを取り返すことは出来なかった。ENEOSはFTを確実に仕留め続けた。本来ENEOSの方が疲労度は高いはずだが、トヨタ自動車の足が動かなくなってしまった。残り5:43で5ファールとなり、さらには3回目のタイムアウト。この時点でENEOSのリードは6点だったが、疲労とベンチを含めた焦りで巻き返す力は残っていなかった。

 

ENEOSは怪我人続出でも出場した選手たちが勝者のメンタリティを授けられていた。渡嘉敷選手はチームメイトを鼓舞し続けた。梅嵜HCが試合後のインタビューで「ベンチには渡嘉敷HCが‥」と言っていたが、これは半分本気だと思う。それだけチームに影響力がある存在なのだろう。そういう偉大な選手に遠慮することなく他の欠場した選手や20歳前後の若い選手も皆が声を出していた。この点は良い意味で高校バスケのようだった。悪い流れの時も皆が声を出していた。これは本当に重要なことである。

 

一昨季のWリーグセミファイナルに続き悔しい敗戦を喫したトヨタ自動車

あの試合の時は高校2年生だった平下選手が今回貴重な経験を積めた。来季や再来季に「あの経験があったから今がある」と言えるチームになっていてほしい。

ただ不思議なのがデンソーのマルコビッチHCも含め世界的名将が普段の采配を出来なかった理由は何なのだろうか。あの選手起用では岡本選手、宮澤選手の経験、宮崎選手のスピードが上回る。映像でスカウティングするだけでは分からないENEOSの凄みとか渡嘉敷選手不在とか色々あるのだろうが、やっぱり何らかの魔力があるとしか思えないし、心理カウンセラーみたいな方に分析してもらいたい…苦笑

 

そして最後に……

ENEOSは吉田選手が実質引退、大会前から怪我人続出、さらには渡嘉敷選手が大怪我。この状態でも優勝した。負けた側にアンラッキーがあったわけでもなく、100%実力で劣っていた。準優勝以下のチームはこの現実を直視してほしい。選手やコーチは皆悔しいと思っているに違いないが(そう思いたい)、チーム幹部や会社の上層部はどういう未来図を描いているのか。三菱電機Wリーグファイナル進出、トヨタ紡織Wリーグレギュラーシーズン4位、日立ハイテクが今大会ベストマッチ4などENEOS以外のチーム間の実力差は縮まっているが、依然としてENEOSの背中は遠い。ENEOSを捕らえられるチームが出てこなければWリーグの人気は上がらない。仮にプロ化、ビジネス化しようにもスポンサーがつかない。試合数を増やしてもホームゲームを増やしても優勝するチームが決まってるようなリーグには興味を持ってもらうことは難しい。

 

ネガティブな締め方は嫌だったが、今大会を見てポジティブにはなれなかった。準優勝以下のチームのより一層の奮起に期待したい。