Wリーグ2021-22 第9週 トヨタ自動車×ENEOS game1

両チームのスタメン10人中7人が昨年末に行なわれたウインターカップでも優勝した高校バスケ界の絶対女王・桜花学園のOG。井上監督の功績の大きさをここでも感じることができる。

さて昨シーズンのリーグファイナルと同カード、立ち上がりから高いインテンシティでぶつかり合い、TVで見ていても熱量が伝わってきた。レギュラーシーズンの一戦とは思えない闘いだった。中でもトヨタ自動車のディフェンス。激闘の中にありながらマンツーマンのようなゾーンのような何とも形容しがたい冷静沈着なディフェンスでENEOSを錯乱。(サッカー的な表現をすると)ディフェンスラインの上げ下げという感じだろうか。前からプレッシャーを掛けたり、ゴール下を固めたり。その判断スピードも凄まじい速さ。ENEOSは渡嘉敷選手・梅沢選手に収められず、起点が作れない。キャッチアンドシュートが基本の岡本選手、林選手の3ptシュートアテンプトも増えなかった。そして焦りからかファストブレイク時のリスキーなパスが増え、ポゼッション機会を活かせない悪循環に。

個で見ると三好選手の出来が素晴らしすぎた。最初の3ptシュートを決められると乗れる選手だが、この試合は乗るなんてレベルではなかった。3ptシュートだけでなく、ドライブイン、膠着状態を打破するミドルシュート、そして何よりもディフェンス。五輪を経て総合力の高いSGへと進化している。銀メダルを獲得したとはいえ決勝トーナメントでは林選手の控え。悔しい思いをしているはずで、林選手に追いつけ・追い越せの気持ちが進化へと導いているのだろう。高校の先輩でもある岡本選手が3ptシュートでエアボール、3ptシュート時のファールからのFTを3本中2本外す。彼女には考えられないことが起きていたのは三好選手とのマッチアップで心身を削られていたからに違いない。

ソハナ選手のリムプロテクターとしての働きも見逃せない。ENEOSインサイドで起点を作らせなかったこと、ファストブレイク時のリスキーなパスが増えたことも‘番人’がいるからこそ。渡嘉敷選手についていけるクイックネス、梅沢選手に当たり負けしないフィジカルで支配した。オフェンス時のミドルエリアでボールを持っているときの判断力も向上。2アシストを記録している。

 

こうしてトヨタ自動車14点リードでハーフタイムへ。しかしこのリードでも全く笑顔は見られない。やっぱりファイナルのようだ。気持ちが高ぶるのも当然だが、モンデーロHCの審判批判はいただけない。ENEOS寄りのジャッジとは思えず、エブリン選手のオフェンスファールは今シーズン何度も取られているので、アジャストする必要がある。またベンチ入り停止の懲戒処分が下る可能性もある。HCがイライラしていてはチームが機能していない時に修正できない。皇后杯もそうして敗退した。この試合のTV中継でゲスト解説を務めた日本代表恩塚HCがアジアカップ決勝のタイムアウト時に選手へ冷静に伝えた「判定は変わらない。プレーに集中しよう」、この言葉をモンデーロHCにも送りたい。

(選手もスタッフもそういう性格だと分かってはいると思うが)そういう性格のHCをコントロールできる人、ここが最大の補強ポイントかもしれない。

 

後半はさらに肉弾戦へ。3x3と5人制の異種格闘技のようだった。もし選手の顔を映さない中継があって、それを詳しくない人が見たら、Bリーグだと思ったかもしれない。強度は上がったが、両チームとも戦い方のベースは変わらなかった。ENEOSが変化をつけられず、点差は縮まらない。4Qはさすがに両チームとも息切れ気味。得点が入らずにポゼッションが入れ替わる時間が続いたが、ルーズボールへの執念は持続していた。見ている側の気持ちが持たなくなるくらいの激戦に終止符を打ったのは馬瓜姉妹。タイムアウト明けのエブリン選手のバスケットカウントとステファニー選手の連続スティールでENEOSのメンタルをへし折った。

ENEOSは宮崎選手、渡嘉敷選手がほとんど休めなかったことも響いたか。

 

とダラダラ書いてきましたけど、まとめると以下の3点じゃないでしょうか。

  • インテンシティレベルの高さ
  • ステファニー選手の万能性
  • 林選手のシュート力を活かせない時の次の策

岡本選手がエアボール、渡嘉敷選手へのロブパスが通らない。ENEOSはものすごく練習すると言われているし、タレント揃いでもあるが、その彼女たちでも普段やっていることが出来なかった。それだけトヨタ自動車のインテンシティ(+高さ)は脅威だったと言える。

屈強なフィジカルと高さ、機動力を併せ持つステファニー選手。彼女の存在だけで林選手がコートに長く立てない効果がある。スイッチしても渡嘉敷選手、梅沢選手も抑えられる。加えてベンチに下がっても・ポジションチェンジしても宮下選手が3番ポジションで同レベルの働き。リバウンド、ヘルプディフェンスでの貢献もあり、オフェンスでもドライブイン、3ptシュートなど10pt。皇后杯準々決勝では後半開始時にコートに送り込まられたが、仕事が出来なかった悔しさを晴らすとともに移籍後最高のパフォーマンスで影のMVP。今後も前チーム時のようなスタッツを残すことは難しいかもしれないが、移籍が正しかったと証明し続けてほしい。

林選手とステファニー選手のミスマッチは昨シーズンのファイナルでも見られたことだが、この試合でも最後まで打開策を出せなかった。奥山選手、藤本選手が20分前後プレーしており、トヨタ自動車を体感したはず。またデンソー相手には破壊力を発揮したツインタワーもトヨタ自動車なら中田選手のスピードの方が活きるのではないか。

 

皇后杯の悔しさを晴らすべくこの一戦に懸けるモチベーションの高さとENEOSの弱点を完璧に突いたスカウティング力も光ったトヨタ自動車だが、今シーズンは安定感に欠ける。ベストメンバーのENEOSがgame2でも同じ轍を踏むとも思えないが、全ては采配次第。自分たちのストロングポイントを出すことにこだわってしまうと連敗もあり得る。トヨタ自動車のウィークポイントは山本選手の過労状態か。彼女が下がるとオフェンステンポがスローになり、このチームの良さが出ないだけにもっとプレッシャーを掛けてすり減らせて、モンデーロHCを悩ませたいところ。

両チームの控えPG川井選手、髙田選手と彼女たちの起用法にも注目していきたい。