INAC神戸がWEリーグ初代女王の座に輝く

開幕から16試合負けなし(14勝2分け)で首位を独走していた。4/3の日テレ東京ヴェルディベレーザ(以下東京NB)との試合に勝利し、同日浦和レッズレディース(以下浦和)も敗れて、あとはINACの優勝がいつ決まるかに焦点が当たった状態だった。

しかし今シーズンを振り返るとINACが圧倒した試合は少ない。スコアで見ても15勝中8勝は1-0、優勝を決めたノジマステラ神奈川相模原戦でも試合終了のホイッスルが鳴っても歓喜している姿は見られなかった。飽くなき向上心の表れだろうが、しぶとく・したたかに・結果にこだわり戦い続けた結果得られた初代女王だと思う。

シーズン前半はFW陣の調子が上がらず、数少ないチャンスを活かして結果を残してきた。皇后杯では東京NBの下部組織であるメニーナに敗れてしまう。さらにはエースナンバーを背負う杉田妃和選手のアメリカ移籍。長いインターバル明けのちふれASエルフェン埼玉(以下埼玉)どの一戦ではゲームメイカータイプの阪口選手を最前線に据える奇策に打って出るも追いつかれての引き分け。屈辱と試行錯誤を経ての好タイミングでエースストライカー田中選手の調子が上がり、チームは加速していった。インターバル明けの2試合では杉田選手の穴が大きいように感じたが、豪快な突破が魅力の水野選手が台頭し、杉田選手とは違う色でチームに推進力を与えた。そして先述の通り東京NBとの6ポイントマッチを制して、突き抜けた。

 

MVPは有無を言わさず山下選手。現役日本人ゴールキーパーでは段違いの能力を持つ彼女の加入は大きかった。ビルドアップの面での貢献度も高く、優勝を決めた相模原戦の先制ゴールに繋がったフィードは浦和レッズ(男子)西川選手のそれを彷彿とさせた。中盤でエネルギッシュにプレーした同じく新加入の成宮選手、シーズン後半戦で得点を量産し、得点王も視野に入ってきた田中選手もベスト11に選ばれるのではないか。

選手のコンディションや相手に応じた柔軟な采配、身長150センチの伊藤選手をセンターバックで起用するなど固定観念に捉われず選 手の個性を引き出す星川監督の手腕もお見事。開幕直後の羽座選手以外大きな怪我人を出さず、コーチングスタッフの力も優勝に大きく寄与しているだろう。

 

16戦無敗とはいえ圧倒していたわけではなく、旧リーグ時代のようなカップ戦もなく、若手育成は難しいシーズンだったとは思うが、来シーズンはそこにも期待したい。WEリーグでも交代枠は5あるはずだが、コロナ前の3枠すら使い切らない試合がほとんどだった。ラスト5分でも良いのでベンチメンバーを使って、経験を積ませて欲しい。

そして昔どこかのJリーグチームが目標に掲げた「目指すのは優勝じゃない。観客を魅了しての優勝や!」、星川監督と技巧派揃いの選手たちならそれが可能なはずだ。今シーズンは巧さを活かして手堅い試合運びをして優勝したが、もっとアグレッシブに!!

 

最後に…

JリーグBリーグの人気チーム、プロ野球でも集客が伸び悩んでいる現状なので、コロナの影響は大だが、INAC神戸のホームゲーム観客平均が2139人、WEリーグ全体では1432人。シーズン開幕前は平均5000人の目標を掲げたが遠く及ばなかった。INACが勝てば優勝の状況で迎えた相模原戦も神戸から遠く離れた地でのアウェー戦とはいえ、1146人に留まった。

先行き不安でならないが、リーグの理念ばかり先行し、競技の魅力が伝えられていないのではないか。日本女子サッカーの魅力はトラップ、パスでのボールタッチ、一瞬の駆け引きやクイックネスでの動き出しなど繊細な部分だと思う。これは人それぞれだろうが(笑)、競技の本質をもっともっと伝えてほしい。