Wリーグ2020-21 ファイナル game2

歴史はまだ変わってはいない。動かした、変わる第一歩を踏み出した。その一戦を振り返っていきたい。

 

林選手、中田選手をベンチスタートとし、宮澤選手、石原選手をスタメン起用したENEOSプレーオフ4試合全て同じスタメンで臨んだトヨタ自動車。変化を選んだENEOSは出だしでゾーンディフェンスを敷いたが、game1で不調だった長岡選手、三好選手に3ptシュートを合わせて3本決められるなどとことん裏目に出て、11-0のラン。奇襲を仕掛けたつもりが自チームを揺さぶる結果に。先勝を許している側がまたしても入りに失敗するとさすがに厳しくなる。当然このままトヨタ自動車ワンサイドゲームとは思ってはいなかったし、ENEOSタイムアウト明けでベンチスタートとなった中田選手を中心に、ボックスアウトを徹底。トヨタ自動車にオフェンスリバウンドを渡さず、粘り強く戦った。

 

  • 明暗を分けた若手起用

リバウンドで勝てなくなり、リードがほぼなくなったトヨタ自動車はgame1でDNPだったソハナ選手を投入し、打開を図った。しかし立て続けにファールをするなどむしろ流れを悪くしてしまったが、それでもモンデーロHCは代えなかった。するとわずかながらリードを奪ったENEOSはgame3を見据えてかプレーオフ初出場となる星選手がコートイン。しかしレギュラーシーズンでも主に試合の決着がついてからの起用に留まっていた高卒2年目にゲームコントロールを託すのは余りにも酷だった。2分ほどでベンチに下がってしまい、その後出番はなかった。一方でデンソーとの西地区大一番やセミファイナルも経験しているソハナ選手はリバウンドだけでなくバスケットカウントも獲得するなど大きく貢献。後半も出場し、河村選手ら主力を休ませることが出来た。戦力底上げという点では大きな差を感じた2Qだった。

昨シーズン含めての話にはなってしまうが、梅嵜HCのカラーが見られなかったのは残念。絶対女王の伝統、連覇を途切れさせてはいけないプレッシャーなど計り知れないものはあるだろう。変えることは難しいかもしれないが、優勝出来なかったからといって南米やアフリカのサッカー選手のように命を取られるわけではない。女子代表ACや山梨学院大学監督など指導者経験豊富な梅嵜HCならいくらでも仕事はあるはず。来シーズンも継続ならこれまで培ってきたものを見せて欲しいし、もし責任を取らされるのなら新天地でもう一花咲かせてほしい。ベンチでの礼儀正しい振る舞いを見ると中高生の指導に向いているのかもしれない。

 

  • 宮崎選手、岡本選手の疲労が色濃く現れた後半

スペーシングへの意識がより強く感じられたが、スペースが広くなりすぎて、オフボールの動きも少なく、パスが回らなくなった。結果宮崎選手、岡本選手の単騎攻めが増えたが、いつもなら決まるレイアップが決まらない。ファストブレイクでも急ぎすぎて、シュートまで持ち込むことすらできず、余分なオフェンスファールが増えた。スタミナが残っていて機動力もある中田選手を中心にオフェンスを組み立てようにも守備範囲の広いトヨタ自動車インサイド陣がシャットアウト。手詰まりとなった。

 

  • 孤軍奮闘する藤本選手

立ち上がりで3ptシュートは決めたもののどこかを痛めているのか三好選手のシュートタッチが悪く、他の選手も含めアウトサイドからのシュートが決まらない中でインサイドを確実に攻略したトヨタ自動車。エブリン選手、ステファニー選手のビッグプレーも生まれるなど最大18点差がついた。一昨シーズンのセミファイナルや代表戦で見せたここ一番での勝負弱さを払拭したエブリン選手。胃腸炎で当日の朝練習を欠席したという情報もあったが、連日の大活躍だった。

トヨタ自動車が3Qで決着させてしまう勢いだったが、望みを繋ぐことが出来たのは藤本選手に他ならない。日本代表林選手ですら昨シーズンまではプレータイムが限られたチームにおいて影に隠れていた選手だったが、怪我人続出の状況で才能を開花させた。スピードはなく、一見身体も強そうには見えないが、独特のリズムのドリブルからの繰り出されるペイントアタック、ステップバックやフェイダウェイシュートでこの試合15pt。しつこいが、セミファイナル前に推してたので、相手ながら嬉しかった(笑)

 

 

何とか喰らいついてはいるものの、10点前後の差で行き来し、ついに焦りを見せてしまったENEOS。宮崎選手がボールを叩きつけてテクニカルファールを取られた。チームをコントロールするPGだけに冷静さを保って欲しかったが、元々険しい表情で熱くプレーする選手なので、時にはこういうこともある。問題はそのあと。熱くなった選手は一旦ベンチに下げて頭を冷やさせるのがバスケのセオリーだと思うが、梅嵜HCはタイムアウトを取ってしまった。選手交代に制限はないが、タイムアウトは後半は3回まで。実に無駄な消費だった。タイムアウト明けも渡嘉敷選手がコートに立つ選手を鼓舞する一方で梅嵜HCの目は泳いでいた。そしてバスケットカウント。ビッグプレーをしてもミスしても笑顔を絶やさないステファニー選手を見て、トヨタ自動車の優勝が近づいてきたと感じた。

 

残り5分以降点差があるゆえか時間を使うこと・ターンオーバーをしないことに意識が傾きすぎてしまった。結果タフショットが増え、1人冷静差を保っていた藤本選手の得点を許した。安間選手・山本選手のつーガードで安定させようとするが、山本選手も2連ゾターンオーバー。嫌な予感が漂ったが、ENEOSには身体も心も限界だったのだろう。3ptシュートは決まらず、リバウンドもトヨタ自動車。山本選手の挽回3ptシュートで決着がついた。

 

残り1分で栗原選手をコートに立たせる粋な采配を見せたモンデーロHC。これがチーム最古参選手へのリスペクトなのか花道を飾る意味なのかは分からないが、チームメイトが2回3ptシュートのチャンスを作り出すなど感動を誘っての初優勝。

シーズン通して大きな怪我人を出さず、勝利と若手育成を両立させたチームの総合力の高さが際立った優勝だった。競技成績の面で歴史を動かしただけでなく、昔ながらの実業団スポーツからの脱却を図る上でも意義のあるものではないかと思う。

 

しかし冒頭でも述べ、セミファイナル後にも当ブログで書いたが、この初優勝は歴史を変える第一歩に過ぎない。

怪我人を出さない、コンディションを整えることもチーム力のうちであり、優勝は優勝なのだが、それでも渡嘉敷選手がいて、宮澤選手が3ptシュートを何本も沈めてくるENEOSと戦って優勝するトヨタ自動車が見たい。このチームのコーチングスタッフと選手なら可能性しか感じない。来シーズンの開幕が今から楽しみでならない。