リスクを負うスタイルへの挑戦 〜INAC神戸連覇へ好発進〜

日本女子サッカー界3強の一角であるINAC神戸。しかし近年は日テレ・ベレーザが2015〜19年までリーグ5連覇・2017〜20年まで皇后杯4連覇など実績を残し、INACは2016年皇后杯優勝以降タイトルから遠ざかっていた。

リーグのプロ化以前から実質的なプロチームとして活動し、練習環境等も日本女子の中では恵まれているとされているチームだけに忸怩たる思いがあったことだろう。

WEリーグへの移行期に鮫島選手ら主力の移籍が相次ぐと引き続き指揮を執るとされていたエンゲルス監督との契約を打ち切り、INAC黄金期の指揮官である星川監督が再登板。

秋開幕のサッカー女子「WEリーグ」 INAC社長に聞く|スポーツ|神戸新聞NEXT

この経緯は不明だが、異例の人事を敢行したからには優勝しか考えていなかったのではないか。

ここまでは女子サッカーをほぼ追っていなかった自分なので上記記事などを元に書いたことだが(笑)、第二次星川政権の戦い方が面白かったかと言われると首を縦に振ることはできない。

強いというかしたたかだった。手堅い、無理をしない、ポゼッションというよりゲームを巧みにコントロールしていく玄人好みなスタイルだった。1-0、2-0で勝つことを信条としていたのだろうか。レオネッサはイタリア語でライオン、イタリアの地方都市にもレオネッサという地があるようだ。原点回帰的な意味でもカテナチオを志向したのかもしれない(たぶん違う)

 

WEリーグの勢力図はほぼ変わっておらず、INACも選手層は薄くなったもののスタメンクラスの選手はほぼ変わっていない。昨シーズンのサッカーを継続した方が連覇の可能性は高いだろうが、攻撃的なサッカーで魅了していかないとファンは増えない。そういう点も踏まえているのかは分からないが(笑)、朴監督は攻撃的なスタイルへの転換を図っている。積極的な守備をして結果裏を取られたりしての失点は致し方なし、3-1、4-1で勝つサッカーを目指してると思う。

カップ戦ではメンバーが揃わず、若手を試しながらの戦いとなったこともあり、攻守のバランスや試合通しての安定感に欠ける面があったが、大宮アルディージャをホームに迎えたリーグ開幕戦では目指すスタイルを体現できたのではないか。

U20W杯を辞退しINACでもカップ戦に出場していなかった竹重選手が左CBに入り、脇阪選手はアンカーポジションへ。カップ戦ではダブルボランチを務めた成宮選手と伊藤選手は1列前に入った。

脇阪選手はやっぱり中盤でこそ活きる選手。ボールを回収して展開して、それによって成宮選手、伊藤選手は前を向いてプレーすることが増えたと思う。ポゼッション率は上がらなくても決定機会創出回数は確実に多く作れる戦い方。

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ミドルシュートを積極的に打っていくなど相手を押し込むと最強のスリーセンターの存在により両WBは常に高い位置を取れて、右CBの土光選手も攻撃に関わる回数が多かった。厚みのある攻撃は見ていて非常に楽しい。

相手は中を固めるも守屋選手、水野選手のクロス精度が質が高まっており、2得点はいずれもサイドからのクロスにより生まれた。

後半の前半は押し込まれたが、そこを耐えて決定機は作らせなかったことで主導権を取り戻せた。完勝と言っていいだろう。f:id:antelopes_7_12_23:20221102122228j:imagef:id:antelopes_7_12_23:20221102122239j:imagef:id:antelopes_7_12_23:20221102122254j:imagef:id:antelopes_7_12_23:20221102122552j:image

 

2週連続ホームゲームとなったジェフ千葉戦は朴監督の色がより濃く出た。高瀬選手をスタメン起用し攻撃的な姿勢を強調したが、前半は5バックで固める千葉相手に攻めあぐねた。逆にハイラインの裏を取られて失点。千葉はワンチャンスをモノにした形となったが、相手からすると狙い所である。INACとしては見事にやられた。

後半は伊藤選手を中心にサイドチェンジを織り交ぜて相手を動かし揺さぶると千葉の守備網にギャップが生まれ始めて、ゴールラッシュ!

追いついてすぐに逆転して、一度同点にされたことは良くない。高い位置で奪われて、切り替えが遅く、三宅選手がやむを得ずイエローカード覚悟で止めにいった。それで与えたフリーキックを決められてしまう嫌な流れだったが、絶対的守護神がしてしまったミスにも動じることなく、再逆転してダメ押し点まで決めることが出来たのはまさに今シーズン目指す戦い方なのではないか。クロスボールを直接ゴール前に入れずファーから折り返して決めた1点目、WBを走らせるのではなくサイド深い位置に収めて起点を作った2点目、4点目など新しいサイド攻撃の形が見られた。中央で多くの選手が絡み細かいパス回しで崩す攻撃も見せ、時間を重ねるごとに幅が増えてきた。

田中選手、高瀬選手が好調で、取られても取り返すサッカーができている面はあるが、連覇も十分期待できる好スタートを切った。

 

相手に押し込まれる展開は昨シーズン何度も経験している(苦笑)開幕戦も先に触れたようにそういう時間帯はあった。昨シーズンは相手に先制を許した試合は(たぶん)3試合しかなかったが、2節でいきなり先制された。それでも慌てることなく後半修正・対応して逆転勝利を収めた。これらは星川体制の遺産であり、大切にしていきたい。

一方控えメンバーの底上げは継続課題。阪口選手or高瀬選手、山本選手はクローザーとして計算できそうだが、攻撃の流れを変えるジョーカーの台頭が不可欠。U20W杯MVPの浜野選手はINACでは力を出し切れていない印象だが、裏に走らせる攻撃を磨けば彼女も活きるはず。同じくU20W杯出場の天野選手やカップ戦で出場機会を得ていた愛川選手にも期待したい。

 

今シーズンへの期待感が高まった2試合だったが、強敵相手にどう戦うか。12月の浦和レッズ戦が試金石となるだろう。f:id:antelopes_7_12_23:20221102204823j:imagef:id:antelopes_7_12_23:20221102205256j:imagef:id:antelopes_7_12_23:20221102205305j:image