連覇の難しさ 〜Wリーグ2021-22 プレーオフファイナル game1

大神ACがプレーオフ前にテレビ番組に出演した際「初優勝するより連覇の方が難しい」との旨の発言をしていた。現役時代ENEOSの中心選手として数多のタイトルを獲得してきただけに重みがある言葉だと思っていたが、この試合はまさに連覇することを難しさを感じさせられた内容だった。加えてWリーグではこれまでになかった大規模アリーナでの開催に5,800人余りの観客が詰めかけ、華やかな演出も施された中で試合が行われた。プレッシャーを感じない選手はいないだろうが、トヨタ自動車の選手たちの方が重かった。

 

町田選手、篠崎選手のスピードを活かした形から連続得点した富士通に対してトヨタ自動車も悪いなりに三好選手の幸運もあった3ptシュートやシュートファールをもらいFTで何とか繋いでいた。モンデーロHCは堪らず5分経たずにタイムアウトを取るが、それでも打開できない。単発なオフェンスではリバウンドで良いポジションを取ることも出来ず、タフショットやターンオーバーが増えた。そこから富士通は走って、スピードのミスマッチから得点しリードを広げた。残り4分頃の宮澤選手、オコエ選手の3ptシュートがうち1本でも入っていたら、試合は早々に決まっていたかもしれないが、トヨタ自動車にツキがあった。富士通の得点が感覚ほど伸びていない中で選手交代によりディフェンス強度を上げて、粘ったトヨタ自動車。ディフェンスリバウンドは確保できており、1Qの最後もステファニー選手がFTを2本揃えて締めた。これは悪くない終わり方だった。

 

2Qは永田選手が篠崎選手の突破を封じて、トヨタ自動車が流れを手繰り寄せるかと思ったが、富士通入団後ここまで躍動しているのは初めてかと思うくらいの藤本選手と宮澤選手のアウトサイドシュートに手を焼いた。ここは河村選手、ソハナ選手とも一旦下げて、長岡選手で封じにかかる手もあったのではないかと思った。

富士通10点リードでの折り返し。トヨタ自動車としてはオフェンスの交通整理をして、もっとオフェンスリバウンドに人数を掛けられる態勢を作り、セカンドチャンス・サードチャンスを作っていかなくてはならない。vsトヨタ紡織game2や富士通に敗れた皇后杯準々決勝と似た展開だったが、気持ちはゴールに向いており、FTを取れている。相手のファールは嵩んでいる。悲観的にまでなる必要はない前半だった。

 

3Qに入りトヨタ自動車のオフェンスに少し流動性が出始め、ステファニー選手とソハナ選手のコンビでバスケットカウントを獲得。直後宮澤選手に3ptシュートを決められるも山本選手が決め返して応戦。トヨタ自動車の流れのようでまだまだ富士通トヨタ自動車東京五輪で日本と対戦したベルギーやフランスのようにオフェンスリバウンドに人数を掛けられない。相手のファストブレイクを恐れているからだろう。エブリン選手はシュート打てるところで周りを見る・どこか積極性を感じないドライブなどプレーに迷いが出始めた。3年前のセミファイナルを思い出す嫌な空気感だった。

それを打ち破ろうと28分経って初めてコートインした平下選手。冷静沈着に3ptシュートを沈め、チームメイトを勇気づけた。3Qラストオフェンスのステファニー選手は明らかに早打ちだったが、セカンドチャンスを決め切って7点差に。あの早打ちが結果オーライになったのも平下選手の3ptシュートがあってのことか。

ここまでは富士通としては良い意味で、トヨタ自動車としては悪い意味で皇后杯準々決勝と似た展開。富士通のディフェンスは安定しており、逆転できそうでできずにgame1は終わってしまうのか。

 

と思っていたら4Qはようやくこのチームらしさが出始めた。富士通タイムアウト挟んでの4連続得点。試合開始からビハインドが続いていたが、一気に捉えた。

ここから根性比べ・我慢比べだが、トヨタ自動車が一枚上手だった。冷静にマークが空くエリアからミドルシュートを決め続けたソハナ選手、前半は緊張感が伝わってきたが、後半開始直前梅木選手ら仲間に勇気づけられて落ち着いたか。ここぞの場面で3ptシュートを決め切った山本選手、最終盤のバスケットカウントは3x3の五輪最終予選を思い出すキレキレなドライブだった。

 

3Qまでほぼゲームプラン通りに進めたであろう富士通としては痛すぎる敗戦で、トヨタ自動車にとっては2勝分の価値があるくらい大きな大きな勝利

勝敗を分けたのは采配力か。今シーズンFT成功率が90%越え、五輪でも手堅く決めていた町田選手が2本とも落としてしまうくらいプレッシャーが掛かるクラッチタイムに調子が上がらない三好選手や迷いが見られたエブリン選手ではなくプレーオフの経験少ない平下選手、宮下選手を送り込んだモンデーロHC。川井選手含めて目立った記録は残せなかったが、起用に応えた。移籍した意味を・銀河系軍団でプレーする意義をコートで示した。調子の良い藤本選手を後半起用せず、4Q選手交代をしなかったテーブスHC。トヨタ自動車としては宮澤選手をポジションアップし、内尾選手ではなく藤本選手もしくは中村選手のプレータイムを長くした方がやりづらかったと思うが、シーズンの中でやってこなかったことを大一番でやる勇気はなかったのだろう。

 

富士通としては好内容の試合を落とし、万策尽きてしまった感もあるが、当然ながら何が起きるか分からない。ファンとしてはラストダンスになるかもしれない三好選手のプレーを目に焼き付けたい。